コロナレポート[ウイルスの生態][spikeタンパクとACE2]

[2]研究的意義において重要な情報

Evidenceの格付けは、研究開発の進展や病態解明のためのEvidenceとしての重要性・新規性等を総合的に勘案して決定した。

★★★抜きん出て重要な情報

★★非常に重要な情報

★知っておくべき重要な情報

◎基礎的研究として、とても参考になる情報

◯基礎的研究として、参考になる情報

(1)ウイルスの生態

★2019年12月26日に重症呼吸障害で武漢中央病院に入院した武漢の海鮮市場の労働者の気管支洗浄液検体から同定された新型コロナウイルスのゲノム(29,903塩基対)は、中国のコウモリに認められていたSARSウイルス様コロナウイルスのグループに最も近かった 。

★★★ある武漢の海鮮市場の労働者の患者から得られた新型コロナウイルスのゲノム塩基配列(29,891塩基対)は、SARS-CoVと79.6%一致し、あるコウモリのコロナウイルス(RaTG13)と96.2%が一致していた。対象とした7人の患者血清では、全てコロナウイルスに対するIgM、IgG抗体価の上昇が認められ、患者の気管支洗浄液から分離されたSARS-CoV-2は、用いた(5人)全ての患者血清によって中和された。また、SARS-CoV-2がSARS-CoVと同様に、アンギオテンシン変換酵素Ⅱ(ACE2)を細胞内侵入の際の受容体として利用することが確認された 。[他の4人の患者のゲノム塩基配列も、相互に99.9%一致していた。受容体結合部位であるSpike(S)タンパクをコードする遺伝子配列は、他のコロナウイルスのゲノム塩基配列と大きく違っており、RaTG13(93.1%)を除き、ゲノム塩基配列の一致は75%以下であった。SARS-CoVのS遺伝子との主要な違いは、N末端領域の3つの短いinsertionと受容体結合領域の5つのkey residueのうち4つの変化だった。][この研究では、SARS-CoV-2が抗SARS-CoV馬抗体で中和されることを確認したが、抗SARS-CoVヒト抗体の交差活性については、確認を要するとしている。]

★★★咽頭部からのウイルス排出は、症状が出た最初の1週間が最も多かった(咽頭では発症時点近く、肺胞では4日目頃がピーク)。ウイルスは、喉と肺の検体からは分離されたが、便からは、高いウイルスRNA濃度にもかかわらず分離されず、血液や尿からもウイルスは認められなかった。喉の検体においてウイルス複製過程の中間産物であるmRNAの検出により、喉でのウイルスの活発な増殖が確認された。喉と肺の検体から異なるシークエンスのウイルス群が持続的に検出され、喉と肺での独立した増殖が確認された。ウイルスRNAの排出は、症状の消失まで続いた。9人の患者のうち4人に、味覚・聴覚異常が認められた。抗SpikeタンパクIgMとIgG、及びSARS-CoV-2中和活性は、7日で約50%(14日で全例)に認められたが、中和抗体価と臨床症状に高い相関は無く、また、抗体陽性の時点からのウイルス排出量は緩やかに減少していった 。[被験者は、全て軽症の患者。ウイルスの分離には検体中に106 copies/ml以上が必要。]

(2)SpikeタンパクとACE2

★★★SARS-CoV-2の受容体は、細胞膜タンパクであるACE2であり、SARS-CoV-2のSpikeタンパクがACE2に結合した後、宿主側細胞膜のセリンタンパク分解酵素であるTMPRESS2で切断され、Spikeタンパクが活性化されることにより、SARS-CoV-2の外膜と宿主細胞が融合してSARS-CoV-2が細胞内に侵入する 。[本研究では、SARS回復期患者血清は、SARS-CoVより低い効率ではあるが、SARS-CoV-2の細胞内侵入を防いだ。同様にSARS-CoVのS1 分画に対するウサギの血清は、SARS-CoVとSARS-CoV-2の両方の細胞内侵入を効率的に防いだが、SARS-CoVの方がより効率的だった。][既存のTMPRESS2阻害剤がSARS-CoV-2の感染を抑制出来る可能性があり、東大のフサン(ナファモスタット)の臨床研究の基礎情報となっている。]

★SARS-CoV-2のSpike糖タンパクの受容体結合領域は、SARS-CoVのSrikeタンパクと同様の結合性(1.2nM対5.0nM)を持つ。SARS-CoV-2のSpike糖タンパクは、S1/S2サブユニットの間の境に4つのアミノ酸残基(Pro681、Arg682、Arg683、Ala684)が入ることによるフーリン(furin)蛋白の開裂(cleavage)があり、他のSARS関連コロナウイルスとの違いとなっている 。[本研究では、SARS-CoVのSのマウスのポリクローナル抗体は、SARS-CoV-2の細胞への進入を阻止したとしている]

★SARS-CoV-2のSpikeタンパクの3量体の優位な態勢は、3つの受容体結合領域のうち1つが上向きに回転して受容体に結合し易くなっている。SARS-CoV-2のSpikeタンパクのACE2への結合性はSEARS-CoVのSpikeタンパクより10~20倍高かった 。[SARS-CoV-2のSpikeタンパク(S)とSARS-CoVのSの構造は良く似ているが、SARS-CoVではdown conformationをとった場合に、N末端領域の近傍のprotomerに対して強く圧縮するのに対し、SARS-CoV-2では三量体の中心部へ向けて近づく方向性となる。SARS-CoV-2はRaTG13と98%の塩基配列が同じであるが、S1/S2境界部のフーリンの認識部位のアミノ酸残基の挿入(’RRAR’(SARS-CoV-2)対’R’(SARS-CoV))]の他、29のアミノ酸残基の違いがあり、その内、17は受容体件都合領域にある。また、本研究では、GISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data database)から61のSARS-CoV-2の塩基配列を解析し、これらの間に、実質的SARS-CoV-2のSpikeタンパクの構造と機能に実質的に影響を与えないと考えられる9つのアミノ酸の代替しか起こっていないことを確認している。更に、本研究では、SARS-CoVの受容体結合領域に対する3つのモノクロール抗体(S230、m396、80R)がSARS-CoV-2の受容体結合領域には結合しなかったと報告している。]

★ACE2-B0AT1複合体は、ヘテロ2量体の2量体として集まっており、ホモ2量体化を仲介しているACE2のコレクトリン様領域がある。RBDは、主として極のアミノ酸残基を通じて、ACE2の細胞外ペプチダーゼ領域によって認識される 。[SARS-2-CoV-2 RBDとSARS-CoV RBDは類似していたが、そのACEとの結合面(interface)には、多くのアミノ酸配列の違いと構造変移が認められた。α1鎖のN末端では、SARS-CoV-2 RBDとSARS-CoV RBDでは、ASN439/Arg426、Gin498/Tyr484、Asn501/Thr487の違いがあり、また、最も顕著な違いはLys417とVal404の違いだった。更に、結合面にはLeu455/Tyr442、Phe456/Leu443、Phe486/Leu472、Gln493/Asn479、Asn501/Thr487の、α1鎖のC末端には、Phe486/Leu472の置き換えがあった。][B0AT1は、ナトリウム依存性中性アミノ酸運搬タンパクであるが、ACE2は、B0AT1の膜交換機能の補助を行う。本研究の研究者は、ACE2の全長はB0AT1存在下で解明されると考えている。]

◎SARS-CoV-2のSpikeタンパクの受容体結合部位より遠方の、SARS-CoVからの変化の少ない抗原性認識部位(epitope)に結合するSARS患者の回復期血清から分離された中和抗体であるCR3022は、SARS-CoV-2にもより弱い結合性で結合するが、CR3022がepitopeを認識するのは、Spikeタンパクの3量体のうち少なくとも2つが、上向きの態勢でやや回転している必要がある 。

★SARS-CoV-2はSpikeタンパクのC末端がACE2と作用して結合体を作る。この結合対の結晶構造はSARS-CoV-2のACE2の結合構造はSARS-CoVと類似しているが、重要なアミノ酸残基の違いがACE2との相互作用を強め、SARS-CoV-2の方がACE2とより約4倍強い結合性を持つ。また、SARS-CoV-2のSpikeタンパクのC末端とACE2の結合体は、SARS-CoVと異なる抗原性を持つ 。[ACE2の24のアミノ酸残基のうち15のアミノ酸は、SARS-CoV-2の方がSARS-CoVよりvdw結合部位が多く、SARS-CoV-2のC末端のRBDの結合面(interface)では、SARS-CoV RBDに比較して、ACE2と直接作用するより多くのアミノ酸残基(21対7)を持ち、それによって、より多くのvdw(ファン・デル・ワールス)結合部位(288対213)と水素結合部(16対11)の作っており、結果としてSARS-CoV-2のC末端のRBDは、SARS-CoVのRBDと比較して、より大きな結合面となっている。][本研究では、SARS-CoVのSタンパク結合体領域へのマウスのモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体は、SARS-CoV-2のSタンパクに作用しなかったとしている。]

★SARS-CoV-2の受容体結合領域(RBD:Receptor Biding Domain)はSARS-CoVのRBDに比較して、ACE2と有意に強い結合性を持つ。両者のアミノ酸残基の違いにより、ACE2とSARS-CoV-2 RBDの結合体は、より圧縮した構造となっており、また、結合面における2つの重要部位を安定させていた 。[SARS-CoVと他のコロナウイルスは、ACE2の受容体結合部位(RBM:receptor binding motif)にPro-Pro-Alaの3残基領域を含むが、SARS-CoV-2とRaTG13は、Gly-Val/Gln-Gln/Thr-Glyの4塩基領域となっていて、この違いにより異なる構造となっている。そのため、SARS-CoV-2では、RBDのAsn487とAla475の水素結合が加わって結合部位がより圧縮した構造となり、Ala475を含むRBMがよりACE2に近くなっている。結果として、SARS-CoV-2のRBDはACE2のN末端螺旋とより多くの結合部位を作っている。また、SARS-COV-2ではSARS-CoVに比較して、ACE2結合面(interface)の2つの重要部位(hotspot)において、アミノ酸残基の違いによる構造変化で新たな水素結合を生じていて、安定性が増している。]

★★SARS-CoV-2のSpikeタンパクの受容体結合領域は、SARS-CoVと非常に似通った構造になっていて、僅かなアミノ酸残基の違いによる構造の違いが、SARS-CoV-2のSARS-CoVと比較して、より強い結合性(4.7nM対31nM)につながっていると考えられた[SARS-CoV-2とSARS-CoVのRBDがACE2と作用するために共通して用いる14のアミノ酸部位のうち、8つのアミノ酸残基は両者に共通であり、5つは同様の生化学的特性を持つが異なる側鎖を持ち(Leu455/Tyr442、Phe456/Leu443、Phe486/Leu472、Gln493/Asn479、Asn501/Thr487)]、残りの1つはGln498/Tyr484部位である。これら6つのアミノ酸残基の違いにより、SARS-CoV-2とSARS-CoVのRBMのアミノ酸残基とACE2のアミノ酸残基との相互作用の違いが生じている。また、RBD外でも、SARS- CoV-2では固有のACE2と作用するアミノ酸残基Lys417があり、ACE2のAsp30と塩橋を作っているが、SARS-CoVではこの部位はvalineで、ACE2との結合には関与していない。同様に、Lys417により、SARS-CoV-2の表面の静電位には、SARS-CoVには無い正電荷の部位の部位がある。これらの些細な違いがSARS-CoV-2とSARS-CoVのACE2受容体に対する結合性の違いになっていると考えられた。また、本研究ではSARS-CoV-2に交差活性を持たない抗SARS-CoVモノクローナル抗体(m396と80R)の抗原性認識部位(epitope)とSARS-CoV-2 RBDの結晶構造を比較して、アミノ酸残基の違いを同定している。]

(続く)

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神奈川県藤沢市で「藤沢在宅クリニック」を開いています。 患者さんのお宅や施設に訪問して診療する、在宅医です。 YouTubeで健康チャンネルを不定期配信しています。 「在宅医が語る!健康チャンネル」 https://www.youtube.com/channel/UC9YxLfSunPnVClEMW04Jeuw ☆著作「在宅医の告白~多死社会のリアル~」(2018.2.26 幻冬舎MC)