Sphenopalatine ganglion block ~「群発頭痛」患者さんの手記より~

私のクリニックはちょっと変わっている。

「藤沢市という地域に根差した在宅診療を中心に行う」ことを決心して、「藤沢在宅クリニック」と名付けたのだけど、色々の必要性を感じて、「認知症外来」と「頭痛外来」をやっているのだ。特に頭痛外来については、どちらかというと青年期~壮年期の患者さんが対象で、高齢者医療とは程遠いが、ありがたいことに遠方の患者さんまで来ていただいている。

頭痛専門医は全国に約1000人くらいはいるのに、何故遠方から?その理由の一つが、クリニックの外来で行っている翼口蓋神経節ブロック(Sphenopalatine ganglion block=SPGB)による。この方法は、大阪の病院で脳神経外科医として働いていた時に、oben(指導医、つまり師匠)から直伝していただいた手法だ。鼻の奥に内視鏡を入れて、麻酔薬を神経節の近傍に置いてきて、浸潤麻酔する。

特に群発頭痛に対して、よく効果がある。(海外では片頭痛migraineに対して、など、もう少し汎用されているようである)群発頭痛というのは中々に恐ろしい頭痛で、「自殺頭痛」という異名がある。自殺したくなるくらい強い痛みが、眼の奥に生じ、経験した人は「眼球を取り出されるかのような痛み」「それで痛みが治まるならば、眼球を取り出してほしいくらい痛む」と言われる。

この神経ブロックを私に教えてくれた師匠の先生は、関西で開業をなさっているが、今はもうこの手技を行っていないらしい。とすると、現状、日本でこの手技を行っているのは私だけかもしれない。外科系で研修を受けた身からすると、手技の難易度は全く高いものではない。率直にいうと、道具と、ちょっとしたコツがあればできる。しかし、私の知る限り、通常ペインクリニックなどを開いている麻酔科の先生でも、ほぼ皆このブロックをやっていない。何故か?内視鏡になじみがない、通常のブロックよりも深部に神経があることなど、いろいろな理由があるだろうが、最も大きな理由ーそれは「誰にもその手技を教わったことがない」ということだ。外科系の医師は、通常、徒弟制度のような形で、obenから手技を教わる。教わる側が知らないことは当然教わることができないし、勿論本などで自習して気軽にやってしまえるほど、手技というのは簡単なものではない。するのが難しいという意味ではなく、失敗は患者さんの身体を傷つける可能性があるわけで、気軽におこなって失敗しました、すみませんでは済まないという事だ。

群発頭痛の特徴の二つ目として、「薬が効きにくい」ということがある。自殺したいくらい強い頭痛で、しかも薬が効きにくい。本当に厄介な頭痛だ。私の教わったブロックに群発頭痛への効果があることを、今までの患者さんから学んだので、何より群発頭痛の患者さんの辛さを何度も何度もお聞きしていたから、私はどこか怪しさのつきまとう、誰もやらないこのブロックを、今もまだ続けている。このブロックの原案は約100年前にsluderという耳鼻科医が考案したもの。「忘れられた手法」。

どうせやるなら、苦しんでいる患者さんも多いのだし、もっとこの手技を広めるため、以前からYou Tube動画にしたいと考えていた。それで、通って下さっている患者さんに出演して頂けないかをお聞きしたところ、なんと快諾してくれた。それどころか、ご自身の病歴を書いた手記まで書いてきていただいた。

しかしながら、最初にお声掛けしてから、一年以上たって、私の力不足により、まだ動画はとれていない。しかし、今も苦しんでいる患者さんがいると思うので、その方の手記をここで紹介したいと思う。この患者さんは群発頭痛の方の中でも特に辛い「慢性」群発頭痛の方で、普通の群発頭痛は一年の内1-3か月くらいが頭痛のある「群発期」なのだが、「慢性」群発頭痛の方は群発期がずっと続く、つまり365日痛むという大変辛い頭痛をお持ちの方だ。

2019年12月8日 職業  会社員 年齢  現在55歳 (第一回目発症時46歳) 診断名 慢性群発頭痛 

1.発症経緯 第一回目 2010年の3か月間 国内出張で頻繁に飛行機を利用していたある日、機内で突然左目の奥に激痛がはしり着陸までの間20分程度我慢。空港に着いて即座に現地の脳神経外科(鹿児島市)を受診。三叉神経痛と診断され薬を処方して頂いた。病院到着したときには発作は収まっていたが翌日から同様な症状が毎日出るようになり、都内の大手総合病院(千代田区)を受診。詳細の検査が終わり群発頭痛と診断されイミグラン錠剤を処方された。発作がでてから薬を飲んでも全く効果がなく、ひたすら1~2時間激痛に耐える日が3か月程度続いたがいつの間にか症状が消滅し、普段と変わらない生活が2年程度続いた。 

第二回目 2012年から2019年現在  前回と同様に国内出張で頻繁に飛行機を利用していたある日の宿泊施設内で、就寝中深夜2時頃に左眼奥に激痛がはしりのたうち回った。翌日以降も同様な症状が続いたため、現地の神経内科(福岡市)を受診し、イミグラン皮下注射とワソラン錠、バファリン錠を処方して頂いた。イミグラン皮下注射は錠剤と違い、発作が出た後でも15~20分程度で効果がみられた。

帰京後、都内の大手総合病院(港区)の神経内科を受診し、イミグラン皮下注射とワソラン錠を処方して頂いた。前回と同様に3カ月程度で消滅するかと期待していたが、一年中毎日1~4回発作がおき、仕事や日常生活に影響を及ぼす日が続くようになっていた。医師からは群発頭痛患者の中で稀な寛解期のない慢性群発頭痛であることを告げられた。そこで、症状緩和を目的に抗てんかん薬、神経障害疼痛薬、ステロイド系抗炎症薬などの様々な薬を試してみたがいずれも効果が見られない状況が続いたため、頭痛専門外来のある大学病院(新宿区)を紹介して頂いた。ここでも群発頭痛は未だ原因不明で対処療法しかないとのことで同様にイミグラン皮下注射を処方して頂いた。この他にも、星状神経節ブロックや翼口蓋神経節ブロックで効果が見られる人がいるとのアドバイスを頂いた。

それから都内のペインクリニックを受診し星状神経節ブロックの治療を受けたが効果はみられなかった。翼口蓋神経節ブロックについては国内で施術している病院がなかなか見つからず、インターネットでくまなく検索した結果、藤沢在宅クリニックにたどり着き、2017年11月に受診し現在も通院中。詳細については3項を参照。

  • これまで試した治療法と効果
  • ☆効果が得られた治療法
  • ア) イミグラン皮下注射
  • 発作時の痛みには有効であるが、副作用(胸痛、動悸、だるさ、下痢等)が伴う。
  • イ) アマージ錠剤
  • 予防薬として使用し一定程度の効果が見られたが、想定外の発作時にイミグラン皮下注射との併用ができないため中止した。
  • ウ) 翼口蓋神経節ブロック
  • 施術後7~10日間は発作が発生(好転反応か?)。
  • 施術のたびに発生頻度と痛みの強さが軽減している。 

  ☆ 効果が得られなかった治療法

) 痛み止め薬、抗てんかん薬、神経障害疼痛薬、ステロイド系抗炎症薬など

オ) TMS治療(磁気刺激療法) 

カ) 星状神経節ブロック                       

キ) カイロプラクティック                       

ク) 整体                               

ケ) 鍼治療(頭部鍼、頭部と手足の鍼と微弱電流) 

※1.カ)~)は最低6カ月以上、オ)は高額であるため6回の施術を行った。 ※2.オ)、キ) ~ケ)は施術中に発作が発生したことがある。

  ③ その他のアプローチ                       眼科、耳鼻科、歯科・・・特に痛みを軽減するための治療法は見つからなかった。

3.翼口蓋神経節ブロックをうけてみて

  施術は仰向けに寝た態勢で、鼻からファイバースコープを用いて安全を確認しながら翼口蓋神経節に近い奥の粘膜にむけて麻酔薬リドカイン4%液をしみこませたガーゼを詰めていきます。神経付近に到達した時に目や前頭部への神経系の強い痛みが起こりますが徐々に麻酔が効いてきて感覚がなくなっていきます。10分程度放置した後にガーゼを取り除きうがいをして終了です。

  施術後の7~10日間においては発作が起こりますが、その後理由はわかりませんが一気に症状が軽減されます。また徐々に発作がおこってくるので同じ治療を受けます。繰り返し治療を受ける度に発生頻度と痛みの強さが軽減しており、治療前は一年中毎日1~4回発作がおき痛みの強さも強烈でしたが、現在は頻度も強さも2~3割程度になっています。

群発頭痛を発症してから8年間で多額な費用をかけて様々な治療を試してきましたが、今のところ効果があったのは、発作時にはイミグラン皮下注射、全体的に症状を軽減するには翼口蓋神経節ブロックが有効でした。翼口蓋神経節ブロックはすべての患者さんに効くかどうかはわかりませんが試してみる価値はあると思います。(引用者注:毎日頭痛があるため、この方はイミグラン皮下注射だけで3000本使用、3割負担で300万円ほど、他に高額の自費治療などをいくつも受けてこられたそうです・・・)

国内において群発頭痛は神経内科の領域となっていますが、翼口蓋神経節ブロックに必要な手技は行われていないようです。そうした中、脳神経外科がご専門の米田先生が、患者の苦しみを理解され限られた診療日のみ治療に当たられています。国内でこの治療を受けられるのは私が知る限り藤沢在宅クリニックだけだと思いますのでお悩みの方は一度相談されてみてはいかがかと思います。

海外ではYouTube等で神経へのアプローチの方法こそ違いますがSPG block(Sphenopalatine Ganglion Block)として紹介されておりますのでご参考ください。   以上

「医者は患者に育てられる」という格言をどこかで読んだ記憶がある。これは本当にその通りで、今メインで行っている在宅診療でもそうだけど、フィードバックをくれたり、感謝してくれたり、時には叱責すら頂いて、それらが全て学びになり、モチベーションになる。やっぱり、今まで学んだことを無駄にするわけにはいかない、きっとすぐに発信していきたいと、決心した!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUTこの記事をかいた人

神奈川県藤沢市で「藤沢在宅クリニック」を開いています。 患者さんのお宅や施設に訪問して診療する、在宅医です。 YouTubeで健康チャンネルを不定期配信しています。 「在宅医が語る!健康チャンネル」 https://www.youtube.com/channel/UC9YxLfSunPnVClEMW04Jeuw ☆著作「在宅医の告白~多死社会のリアル~」(2018.2.26 幻冬舎MC)